2010年4月24日土曜日

Appleがwebのルールを変えようとしているんじゃないかという話

先々週、AppleからiPhone OS 4.0が発表されました。
同時に発表されたiAdなる広告プラットフォームにより、Apple経済圏がついに広告ビジネスまで押し寄せて来た、という印象です。
以下の記事にあるように、一部では発表当時から既に話題に。

iPhone OS 4.0の新機能を一覧で。モバイル広告の"iAd"の詳細も明らかに
http://techwave.jp/archives/51430260.html
ジョブズ、Googleにジャブ、iAdで傷口に塩を塗りこむ
http://jp.techcrunch.com/archives/20100408jobs-takes-a-few-pot-shots-at-google-rubs-salt-into-the-wound-with-iads/

どちらもAppleをGoogleと比較して書いていますが、上の記事にて「ウェブのグーグル VS. アプリのアップルの始まり」と書かれていたり、別のTechWaveの記事では「Facebook対抗」と書かれていたりするように、僕としてはAppleがGoogleのみならずweb全体と争う構図の方がしっくり来ます。Appleはwebのルールを変えようとしているんじゃないか、そんな風にも感じ取れるのです。
というわけでこのエントリでは、Appleが変えようとしているものについて迫ってみたいと思います。



これまでのwebアクセスを振り返る
Appleが変えたものに迫るため、まずはこれまでのwebにアクセスする際のユーザー行動を振り返ってみましょう。
1.電源をONにする
2.ブラウザを選択する
3.ブラウザのトップページに到達
4.ブラウザのお気に入りから目的のサイトに到達
という流れになっていました。トップページが検索サイトの場合や、お気に入りから検索サイトで検索する場合は
5.検索サイトで検索し、目的のサイトに到達
という流れになります。

この流れを見ると、ポータルサイト各社が3の「トップページ」になろうとしていた理由がよく分かります。
要は最もアクセスされやすい場所がトップページなのですね。
また近年では4の「お気に入り」を使わずに5の「検索」をブックマークとして利用するようなナビゲーショナルサーチと呼ばれる利用も増えています。
ここ数年間、検索サイトの重要性は増すばかりで、長らくSEO/SEMの重要性が語られてきました。

また、上記のプロセスは、これまでの一般的な日本のケータイでも基本的には同様の流れになっていました。
但し、3が各キャリアに握られてしまっているため、各社は4の「お気に入り」というポジションへの登録を促しました。
2年ほど前から各キャリアが検索を採用し、こちらでも検索の重要性が増したのはご存知の通りです。

iPhoneにおけるwebアクセス
次にiPhoneにおけるwebアクセスを見てみましょう。
1.まず電源をONにする
2.目的のアプリを選ぶ、あるいはアプリの一つであるブラウザを選ぶ
3.(ブラウザを選んだ場合)ブラウザのトップページに到達
4.ブラウザのお気に入りから目的のサイトに到達
5.検索サイトで検索し、目的のサイトに到達
変化したのは一目瞭然、2の「目的のアプリを選ぶ、あるいはアプリの一つであるブラウザを選ぶ」ですね。
様々なwebサービスがiPhoneアプリを出していることからも分かるように、一つ一つのアプリは突き詰めればwebサイトと同じです(無論ゲームや書籍など、webサイトと同じでないものもありますが)。
極論を言えば、webサイトへのショートカットがそこに置かれているのと同じ状況であると言っても良いでしょう。
この、webをアプリ化してホーム画面に位置させることで、ブラウザでwebサイトを開くよりも一段階前で選択される、というアクセシビリティが、iPhoneにおける最も重要な変化であると言えます。
スティーブ・ジョブズが言った「モバイルデバイスでは、デスクトップと違って検索は主役ではありません。ユーザーはアプリに時間を割いています。アプリを使ってインターネットのデータを入手するのであって、一般的な検索はしないのです。」という言葉からも、この環境を意図的に作り出していることは明らかです。

Appleが変えるのは2つのFREE
さて、ではこの変化が、具体的にwebのどんなルールを変えるのでしょうか。
それは2つのFREEであると、僕は思います。
つまり、無料と自由です。

無料から有料へ
書籍『FREE』でも声高に言われているように、webの世界では無料であることが一つの重要な戦略となります。
何度かこのブログでも話題にしてきたように、僕はwebの世界ではFREE戦略は非常に重要であると思いますし、webの無料の空気も基本的には好きです。ただ一方で、それによってwebサイトからの情報取得は無料が当然だという概念が出来上がったことも事実でしょう。
これはユーザーにとっては大変便利で有難いですが、一方で文章を書いたり絵を描いたり写真を撮ったり、というクリエイティビティを生活の拠り所としてきた人々にはお金儲けが難しい状況になっている側面もあります。

ところがこれがiPhoneアプリだと話が変わってきます。
アプリは基本的には有料、無料のものもお試し版は無料で、アップデートしようとすると有料になるものが多いんですね。
またApp Storeの画面を見ても、「カテゴリ」と「トップ25」という、人気順で露出が変わる項目については、明確に有料アプリと無料アプリの置き場所を分けています。つまり、無料で数を稼いだ人が有料よりも目立つというロジックが無いわけです。確かにこの方法であれば、全員が無料に突入するチキンレースは避けられます。

クリエイターが食っていけるように、という配慮はアプリという形態にも隠されています。
iPhoneが最初に日本で発売された頃のことを覚えているでしょうか?
この当時、iPhoneにはコピー&ペーストの機能が備わっていませんでした。
これも僕はクリエイターへの配慮だったのではないかと踏んでいます。
当然ながら、クリエイターはその著作が簡単にコピー出来てしまっては販売するのが非常に難しくなります。
だからコピーを出来ない環境を作る、というのはクリエイターを活かすための必要条件だったのです。
例えば、皆さんはテレビに表示された文字をコピーしたいと思ったことはないですよね?
これはテレビのコンテンツのハンドリング権がユーザーには無いからです。
でもPCだとコピペをするのが当たり前になってしまっている。
Appleは、テレビのように「コピー&ペーストが無くて当たり前」の端末を作りたかったのではないでしょうか。
結果的にAppleは、ユーザーからの要望に答えて、OS 3.0からコピペ機能を搭載しました。
しかしこれもAppleはきっと気付いたのだと思うのです。
アプリという形態を取れば、コピー&ペーストが出来なくても不思議ではないということに。
実際、多くの電子書籍アプリではコピー&ペーストはできなくなっています。
Appleがクリエイター重視の姿勢を貫いているのは、佐々木俊尚さんの『電子書籍の衝撃』でも触れられているように、スティーブ・ジョブズがAppleだけではなく、Pixarという映画制作の会社も率いていたことに端を発しているのではないかと感じます。
iPodは何を変えたのか?』という本のインタビューで、ジョブズは音楽業界についてこう答えているそうです。
ハリウッドの連中にとってテクノロジーは「買ってくるもの」で、それが創造的なプロセスだとは全然思っていない。突然インターネットが出現して、彼らの商品を盗みはじめた。ナップスター後遺症に悩まされ、つなに糾弾すべき相手を捜し回っている。そして、テクノロジー業界にまで非難をぶつける。
一方テクノロジー業界の側は、彼らの商品にどれだけ手がかかっているか知らないから、違法ダウンロードをどうでもいいことだと思っていて、「うーん、ぼちぼち彼らも新しいビジネスモデルを作る必要があるね」で片付けてしまう。
でも、どっちも間違いなんだ。

自由から統制へ
さて、今まで見たように、Appleはアプリという形でパッケージングすることで、情報にアクセス出来るアイコンをユーザーに販売することに成功しました。
これだけであれば、webの世界にも有料化の波が起き、クリエイターも食っていく事が出来て良いことのように思えます。
但し、ここには大きな罠が潜んでいます。
Appleによるビジネスの統制です。

このアプリをユーザーが購入するためには、ユーザーは必ずApp Storeを通ります。
このようにアプリの流通をAppleが握っているということは、何を陳列するかも全てAppleが握っているということになります。
先日、AppleがPUFF!等の露出度の高いアプリをApp Storeから外したのは記憶に新しいですね。

またAppleはiPhone OS 4.0で、License Agreementにて、Flashなどの他言語からクロスコンパイルされたアプリや互換レイヤーを介して動作するアプリを禁止しました。
これには、ここここなど、国内外を問わず批判が出ています。
これもFlashを締め出し、Appleの自社への依存度を高める戦略の一つでしょう。

また同時に発表されたiAdという広告プログラムにおいても、iPhoneアプリ上の広告をAppleが全て押さえようとしているのは明らかです。
ここでちょっとiAdのデモを見てみましょう。


デモを見て分かるのは、iAdはその広告アプリの上で、製品情報やゲームなどのコンテンツ、更には自分の近くにある店舗情報など、多くの情報を見ることが出来るということです。
これはwebに当てはめれば、バナー広告などの一般的に言われるインターネット広告よりも、企業のwebサイトやブランドサイトに近いと言えるでしょう。
このように広告においても、webのアプリ化をすることで、ブラウザを起動せずとも完結する世界を目指しているように感じられます。


Appleの作る製品とそこから得られる体験は確かに素晴らしいです。
それでも、僕はいろんな人が自由に何でも作れ、何でも見られるというwebの思想と仕組みが大好きですし、いろんな企業が作ったサービスがそれぞれ連携して更に便利になる、というエコシステムも素晴らしいと思います。
Appleはこういったwebのルールを崩し、情報の流通を握ることでこれまでのマスメディアのような存在になっていくのかもしれません。
これは僕の考えすぎでしょうか。

6 件のコメント:

  1. 僕も同じこと考えてました。

    推測でしかないですが、"After Jobs"を考えてるんですかね。。仮にそうだとしても、こういった囲い込みは逆効果だとも思うのですが…。

    Googleも携帯端末でアトムの世界に出て行ったことを考えると、どうしてもAppleと比較したくなりますが、将来的にはGoogleのほうに分がありそうです。

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  2. おおーコメント有難うっす!
    「"After Jobs"を考えてる」というのは僕も多分あると思います。
    App StoreもiAdも、安定した収益を生むものばかりですもんね。

    どちらに分があるかは正直僕はまだ分かりませんが、webの自由さは負けてほしくないなーと思います。

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  3. それだけじゃないと思うのですがね。つまりクローズドでよりコンテンツ志向の基盤と、オープンで無料なウェブ基盤の両者を保有してますよね。

    ・クローズドなAppStore
    ・オープンなWebKit

    確実に言えることは、iPhoneはウェブにも孤立しない仕組、つまりWebKitを公開して普及させることで、オープン基盤との互換性も確保しているということです。

    ウェブはどう考えても端末自体はコモディティ化します。Apple的には、OSにも端末にも特定の企業(例えばAdobe)にも依存しない環境になり、思いっきりコモディティ化すればいいと考えているはずです。何故なら、そこでは誰も製品を差別化できなくなるからです。

    そしてウェブは、iPhoneプラットフォームでも普通に機能するものです。

    AppStoreビジネスは、そのオープン性がウェブで確保されていることが前提です。誰も製品を差別化できないウェブと、コモディティ化する端末に対して差別化を計るには、独自の基盤を保有すること以外にないんじゃないでしょうか。

    それが非難されることだとは個人的には思わないのでが、全てがオープンなもので無ければ駄目というのは逆に狭い考え方だなと思います。

    要はゲーム機ビジネスの発展系としてのアプリ市場+ウェブ。

    これから端末はどんどんコモディティ化するのは避けられないのは明白なはずですが、じゃあ例えば日本企業はGoogleを褒め称えて重宝すれば食っていけるのかという話です。「オープン化こそ世界の流れだ!」みたいに馬鹿真面目に全てそれだけでやっていたら、企業は確実に死に向かうはずです。

    これからはオープン+超αじゃなければ駄目です。

    それがAppleではAppStoreであり、Googleは検索であり、MSはOSでありみたいに、今の時代、いかにクローズドな部分で強みを発揮できるのかが問われる時代になってますよ。

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  4. 逆に疑問に思うのは、全てのプラットフォームがウェブのようにオープンでなければ駄目という思想ってどこからくるものなんでしょうか?

    AppStoreコンテンツ基盤はウェブをどうこうするという話ではないと思うし、何故そこで広告基盤を築くとウェブのルールが変わるのか?みたいな疑問とかあります。何が何でもウェブじゃなきゃ駄目だ。オープンじゃなけりゃ駄目だ。みたいな固定観念みたいなものがあるように感じます。特にはてな利用者ってそんなのばっか。

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  5. 匿名のお二方(お一方?)、有難うございます。
    > 全てがオープンなもので無ければ駄目というのは逆に狭い考え方だなと思います。
    > 全てのプラットフォームがウェブのようにオープンでなければ駄目という思想ってどこからくるものなんでしょうか?

    仰る通りだと思います。
    「オープンでないと駄目」では全くもってないです。
    > 僕はいろんな人が自由に何でも作れ、何でも見られるというwebの思想と仕組みが大好き
    というのは実はかなり意図的に書いたのですが、これは良し悪しの問題ではなく、完全に好き嫌いの問題なのだと思うのです。
    だから、アップルのオープンでないやり方が駄目だ、ということでは全くもってありません。
    でも確かに誤解されやすい書き方かもしれませんね。
    ちょっとだけ付け加えさせて頂きます。
    コメント有難うございます!

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